イギリスの電力自由化事情
2016年4月に始まった電力自由化。
諸外国ではすでにさまざまな先行例が存在します。
具体的な成功点や失敗点から、私たちにも学べることがあるかもしれません。
今回はイギリスの電力自由化事情について見ていきましょう。
イギリスの電力自由化の経緯
イギリスでは1990年から自由化に向けての取り組みが始まっており、1999年から全面的な電力自由化が開始されました。
イギリスは長引く不況や高騰する電気代に苦しんでおり、競争を生み出すことで電気料金を引き下げようと考えたのです。
そのためにさまざまな規制緩和を行って、新規参入事業者を受け入れる下地づくりに取り組みました。
イギリスでは国営の大手電力会社を民営化・分社化し、50社以上の新規事業社が参入しました。
そして現在にいたるまで激しい価格競争が続き、常に多くの電力会社でさまざまなキャンペーンが行われています。
イギリスでの乗り換え方や料金プランの選び方
イギリスでは電力自由化から20年以上が経ち、個人が電力会社やプランを自由に選ぶことがもはや当たり前となっています。
プランの複雑化を受け、政府が対応するなどサポート体制も万全です。
電力自由化の先駆者であるイギリスの乗り換え方やプランの選び方について見ていきましょう。
●乗り換えが日常的に行われている
イギリスの人々にとって、スーパーに買い物に行ったついでに電気を乗り換えてクーポンをもらう、ということはごく日常的な風景です。
年間に約1割の人が電力会社を乗り換えるといい、1年から3年おきに電力会社を見直すというライフスタイルが定着しています。
暖房費のかさむ冬になると競争はますます激しくなります。
「5年契約したら電気代3ヶ月無料!」
「乗り換えると今なら1万円分の商品券をプレゼント!」
などといったキャンペーンは、まるで日本でいうところの携帯電話会社のようですね。
●多様なプランが存在
通信業界から新規参入した企業なら、電気の契約をすることでインターネット接続や携帯電話の割引が受けられます。
また、イギリスの場合はガスの自由化も同時に始まったため、電気とガスをセットで契約することで割引になるプランも多いです。
このようなプランは、日本の新規参入事業者でも多数登場していますね。
このほかにも時間ごとに単価がかわるプランや、契約期間固定制のもの、自然エネルギーに特化したものなど多種多様なプランがあり、消費者にとってはわかりにくい面があります。
そのため、イギリスでは公的に認証されている比較サービスが存在します。
●専門の比較サービスでわかりやすい
このサービスでは、消費者が自宅の郵便番号を入力するだけで選べる電力会社とプランが一覧で表示され、電気料金を比較することができます。
これらの比較サイトは、電力会社と利害関係のない公正・公平な視点から選ばれています。
イギリス政府のこういった取り組みが、乗り換えのハードルを低くすることにつながっているのでしょう。
■イギリスの電力自由化事情
世界に先駆けて電力自由化を取り入れたイギリスでは、成功した点もあれば失敗した点もあります。
●成功した点
電力自由化以前、イギリスでは国営の中央電力公社1社だけが電力市場を独占していました。
日本で地域ごとに大手電力会社が独占していたのと同じですね。
しかし、割高な燃料の使用や発電施設の増設などでコストがかさみ、その分が電気料金に上乗せされるなど経営状態はかんばしくありませんでした。
そこで当時の女性首相サッチャーが民営化を推し進め、市場の活性化を目的に電力市場を開放したのです。
この当時の電力自由化は革新的で、その後世界中で電力自由化が導入される大きなきっかけとなりました。
現在では、Big6と呼ばれる大手電力会社6社が市場の9割を占めています。
しかしどこかひとつの会社だけが独占するということはなく、競争関係が生まれる良きライバル同士としてのバランスが保たれています。
こういった点から、イギリスは「ひらかれた市場」として成功し、世界の手本となっているのです。
●失敗した点
・強制プール制の導入
電力自由化当初、イギリスでは強制プール制という仕組みが導入されました。
発電された電力はいったんプール市場(卸売市場)に集められ、そこから電力を販売するという方法です。
しかしこの方法では大手電力会社が簡単に価格を操作できたため、価格競争が公正に機能しなくなりました。
その結果、電気料金の値下がりにはつながりませんでした。
その後2002年にNETA、2005年にBETTAという新たなシステムが導入されたことで、競争制が高く効率的にまわるようになり、電気料金はそれまでに比べ4割値下がりしました。
・電気料金の値下がりには至っていない
ところが2004年頃から価格は上昇に転じ、現在ではなんと倍近くにまで値上がりしています。
その背景には、発電のための燃料費が世界的に高騰している影響があります。
イギリスでは電気料金の3分の2が発電コストに充てられており、諸外国と比べて高い割合となっています。
そのため燃料費の高騰の影響をそのまま受けてしまうのです。今後は発電コストを抑えることが、さらなる電気料金の値下げのための課題となっていくでしょう。
■いい面も悪い面も参考に
世界でいちはやく電力自由化を導入したイギリス。
紆余曲折を経て、現在では国民の間ですっかり定着するまでになりました。
日本ではまだ電力自由化が始まったばかりですが、失敗点・成功点ともに、今後の料金プランやシステムの参考となる部分があるのではないでしょうか。